海上防衛装備
結局沈没したロシア軍旗艦である巡洋艦「モスクワ」の話を聞きながら、巡洋艦とは?と気になった。軍事用語はなじみがないと正確に意味するところが分からない。しかも専守防衛を旨とする我が国の場合、特に注意が必要である。例えば、「destroyer」は他国の場合なら「駆逐艦」と訳すことになるが、自衛隊の「護衛艦」を「駆逐艦」と呼べば防衛目的ではなく攻撃用途ということになるので、憲法違反の誤訳になる。「空母」も攻撃用ということになるので、「空母」と言って良いのは、かわぐちかいじのマンガの中だけである。迂闊なことは言えないが、調べ始めると泥沼に嵌まることになる。そもそも、軍事用語は略語が多い上に、略語がそのまま流通しており、略した元の言葉があるのかどうか怪しい場合もある。歴史的経緯が分からないと、意味が不明なこともある。にも拘わらず、知識量でマウントを取り合うことが正義となっているこの分野の指摘は厳しい。しかも、意外と定義は曖昧で、年代によって変化する場合もあるようである。機密が重んじられるこの分野は、三度の飯より秘密が好きな人間の性に訴えるものがある。
米国海軍長期計画の年次議会報告書と、それを引用して訳した笹川平和財団の論文をつきあわせると以下のようになる。
正規空母 | Aircraft Carrier |
軽空母(CVL) | CVL |
強襲揚陸艦(LHA/LHD) | Amphibious Warfare Ship |
それ以外の揚陸艦 | Amphibious Warfare Ship(less LHA/LHD) |
大型水上艦 | Large Surface Combatant |
攻撃原潜/巡航ミサイル原潜 | Attack Submarine/Large Payload Submarine |
戦略ミサイル原潜 | Ballistic Missile Submarine |
戦闘後方艦艇 | Combat Logistics Force |
支援艦艇 | Support Vessel |
無人水上艇 | Unmanned Surface |
無人潜水艇 | Unmanned Subsurface |
戦闘艦艇 | Battle Force |
CVLはLight Carrier Vesselと思われる。LHAは、General Purpose Amphibious Assault Ship(一般用途揚陸艦)、LHDはWasp class Multiple Purpose Amphibious Assault Ship(多目的用途揚陸艦)のことである。
この辺までは大丈夫そうだが、細かいところは色々なものに当たりながら良く調べないと危なっかしい。艦、船、艇、舟の使い分けなど、結局一つ一つ当たらないといけないようである。英語圏の各種情報を調べ、日本での表記を確認することが不可決と思われる。
気が済んだところで「巡洋艦(cruiser)」である。Wikipediaを読めば分かるように、というか分からないように、「フリゲート」や「コルベット」との違いは何のことやら分からない。つまり、ある意味簡単で、「巡洋艦」と言えば「巡洋艦」、「フリゲート」と言えば「フリゲート」、「コルベット」と言えば「コルベット」だということのようである。
「巡洋艦」モスクワは、全長186.4 m、幅20.8 mで、乗員510名、兵装として対艦ミサイル、長距離艦対空ミサイル(SAM)、SR SAM、対空対地両用砲、 CIWS(近接防御火器システム)、対潜迫撃砲、魚雷発射管を備え、ヘリコプター1機を搭載していた。今回の被弾第一報に際しては、ミサイルが命中したのか、あるいは自ら起こした事故なのか、事実の確認が必要だという声も上がったが、それもロシア軍では故の無い話ではなく、同艦も1975年には船内の出火と整備不十分により修理に1年半以上を要する事故を起こしている。司令部が置かれ、南部の制空権確保に重要な役割を果たしてきた旗艦があっさり沈められたことには、ロシア製兵器を導入していた国も含めて衝撃が拡がっている。