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魔法科学の最新動向に関する論考

Rapidus株式会社設立の周辺が面白すぎて、野次馬にも興味が尽きない

 2nm以下の最先端LSIファウンドリを日本で実現すると謳うRapidus株式会社が11月11日に設立されたが、

次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けた取組について公表します (METI/経済産業省)

すでに疑問視する声が各方面から上がっている。EUV露光装置だけで180億円、パイロットラインで2兆円、量産ラインで3兆円とも言われるが[1]、実際にはそれ以上の投資が必要になるのだろう。、東京五輪の経費が1兆4238億円だったというから、もし量産にまで進めばオリンピック3回分では済まないくらいの投資になる。国費が投じられるとなれば、もっと真剣に論じられるべき話だろう。

 半導体の技術、業界、ビジネスの観点からは、理解に苦しまざるをえない。当然ながら、これは経済安全保障上の政治的施策ということになるのだろうが、そこの話がよく見えない。一般紙レベルでは、「日の丸半導体復活へ」のような調子外れの見出しが跋扈しており、技術関連と政治関連の報道が乖離している。乖離しているのが報道だけならまだしも、誤解や理解不足がどこかにあって生じた話ならば大惨事になる。

 ただ実際は、トップレベルの政治判断に後押しされている話なので、防衛や外交なども含めた大きな盤面上で決まっている筈である。日本が自分から持ち出す話とも思えない。アメリカもTSMCアリゾナ工場だけでも大変なので、お鉢が回ってきたと考えるのが自然なのではないだろうか。

 そうは言っても、世代を飛ばして将来世代に取り組めるわけはないので[2]、どこかと組んで開発することが不可避になる。そもそも、Rapidus参加企業が先端ロジック半導体を作っている訳でもないので、かなり強引にお付き合いを強要されたことが察せられる。TSMCの日本企業向け割合は全体の4%という話もある。

 最新鋭世代プロセスを持っているファウンドリ企業は世界に3社、TSMCIntelSamsungしかない。現在の政治状況ではSamsungはないし、今でも歩留まりが上がらず顧客が離れつつある[3]TSMCアリゾナで手一杯、Intelがいやだと言えば、仕方がないので、一世代前くらいのファブを持っているIBMGLOBALFOUNDRIESのようなところと組むことになるのか。(後記:と思っていたら、やっぱりそうなった。

IBMとRapidusが、日本で2nmの最先端半導体を製造するに至った背景と目標 - PC Watch

教わる立場とは言え、それで大丈夫なのだろうか。)

 提携企業も決まらないこの段階で発表したのは、露光機の確保から納品までには数年はかかるのでこのタイミングで発表して発注しなければいけなかったとか、何らかのスケジュール要因もあって中途半端なタイミングでとにかく発表したというようなことがあっても不思議ではない。

 台湾有事は日本有事なら、日本にファブ作って意味があるのかというのも良くわからない。憶測に憶測を重ねても意味はないが。

 ASMLは中国に最先端露光装置を輸出できなくなるが、最先端プロセス向けではない米国の製造装置は輸出できるというのも、趣旨から言ってもそれはそうであるし、これをもって米国の身びいきといっていいものかどうかは微妙かもしれない。しかし、チョークポイントはオランダの露光装置と日本の材料が握っているのを米国の言いなりで規制されるというのも、企業側にしてはたまったものではないという言い分はあるだろう。

ASML、新たな対中規制をけん制-既存措置で「お手上げ」とCEO - Bloomberg

その受け皿を早く日米欧が提供することが必要になる。TSMCアリゾナ工場がその役割を担えるのだろうか。

 この関連で名前が出てこない韓国/Samsungもロビー活動をしているとはいうものの、名前を外されていることは、不信感の反映だが、屈辱だろう。今後、この点もどうなるのだろうか。

 Rapidusの創業個人株主8名というのも、誰なのだろうか。ハゲを自認する方は入っていそうだが、これも良く分からない。

 色々と一々野次馬にとっては興味が尽きない。

 

【アップデート】 2022年12月07日

Rapidusとimecが最先端半導体の研究開発で協業へ:協力覚書を締結 - EE Times Japan https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2212/07/news083.html 

 

[1] 【報道:半導体新会社「日の丸連合めざさない」 カギの露光機確保 さらなる資金調達も】

2022年度はまず要素技術を獲得し、EUV露光機の導入に着手するなど、パイロットラインの初期設計を実施する。研究期間終了後は、その成果をもとに先端ロジックファウンドリーとして事業化をめざす。

 小池社長は「パイロットラインで2兆円、量産ラインで3兆円かかるとみる」と話し、今後の追加の資金調達も考えていく姿勢を示唆した。また、ポイントになる露光機を確保できたことを明らかにした。「奪い合いだが、確保した。その導入や設定、IBMとの連携などを進める」と、初期の700億円はこれらに充てられるとの見通しを示した。 https://dempa-digital.com/article/372500 

[2] 【論説:なぜ今、台湾から“2世代遅れのプロセス”を誘致するのか】

【台湾の半導体大手が日本進出】TSMCの狙い、日本市場への影響は!? 「2世代遅れのプロセス」の真の意味を解説

2世代遅れたクリーンルームだと10〜20nmぐらいだと思うんですが、それでも車産業ではたぶん最先端ですね。

https://logmi.jp/tech/articles/326513   

https://logmi.jp/tech/articles/326514 

[3] TSMCの4nmで製造され、ユニークな構成のCPUを内蔵するSnapdragon 8 Gen 2、GPUの大きな性能向上を確認 - PC Watch https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1457462.html 

Samsungでは67%が不良品。